依頼内容:「桜の精霊になって花見客を祝福せよ」報酬は桜餅20個

依頼主は地元の和菓子屋の三代目じゃった。「うちの桜餅をPRしたいんですけど、桜そのものになってもらえませんか」と言いよる。意味がわからん。
詳しく聞けば、桜の樹液を全身に塗り、花びらを貼り付け、花見会場で「桜の精霊」として練り歩いてほしいと。報酬は桜餅20個(4,200円相当)。64歳の爺に何をさせるつもりじゃ。
「樹液ってあのベタベタするやつですか」「はい、松ヤニみたいなもんです」「……やりましょう」
断る理由がない。金がないからじゃ。ワシの口座残高は現在23,841円。桜餅20個は立派な食料じゃ。
樹液地獄——ベタベタが全身を支配した瞬間

当日朝5時、依頼主が持ってきた樹液を見て絶句した。2リットルのペットボトルにドロドロの琥珀色の液体が詰まっとる。匂いを嗅ぐと甘酸っぱいような、接着剤のような異臭がした。
公園の多目的トイレで全身に塗り始める。最初は「意外といけるかも」と思った。が、10分後には後悔しかなかった。
- 腕を曲げると皮膚同士がくっつく
- 目を閉じるとまぶたが開かなくなりそうになる
- 呼吸するたびに胸毛が引っ張られて激痛
花びらを貼り付ける作業に入った頃には、ワシは完全に人間接着剤と化しておった。便座に座ったら尻がくっついて立てなくなり、壁に手をついたら掌が剥がれなくなった。
「もう終わりじゃ」そう思った瞬間、ドアを叩く音がした。「GENZOさん、そろそろ会場の時間です」依頼主の声じゃ。便座から尻を引き剥がすとき、皮膚が3センチほど持っていかれた気がした。

神扱いされて酒もらったのは嬉しかったが、樹液がベタベタで三日風呂入れんかったわい
花見客が土下座し始めた——予想外の神格化

満身創痍でトイレから出たワシを見た依頼主が、その場で膝から崩れ落ちた。「な、なんですかその神々しさは……」何を言っとるんじゃこいつは。
花見会場に到着すると、異変はすぐに起きた。酔っ払いのおっさんがワシを見て「うわっ」と叫び、そのまま正座した。続いて家族連れ、カップル、老人グループが次々と頭を垂れ始めた。
樹液のテカりと花びらの装飾、そして早朝から格闘した結果の疲労困憊の表情が合わさり、ワシは「苦行を終えた修行僧」に見えていたらしい。
「桜の神様だ!」「ありがたや、ありがたや」「子供の受験に御利益を!」
気づけばワシの前にお賽銭の列ができておった。100円玉、500円玉、中には1000円札を置いていく者もおる。ワシは何も言わず、ただ頷いた。喋ると口の周りの樹液が剥がれて痛いからじゃ。
最終結果——神として得たものと失ったもの

6時間の「神業務」を終えた結果がこちらじゃ。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| お賽銭総額 | 14,720円 |
| 土下座した花見客 | 推定47名 |
| 写真を撮られた回数 | 200回以上 |
| 皮膚科治療費(後日) | 8,900円 |
| 樹液除去に要した時間 | 4時間38分 |
全身の毛という毛が樹液で固まり、風呂場で剥がすたびに悲鳴を上げた。特に脇毛と胸毛は壊滅的で、一部は諦めてハサミで切った。翌日、鏡を見たらまだら模様の老人がおった。ワシじゃ。
報酬受け取り——桜餅20個と「神の残像」

依頼主は約束通り桜餅20個を持ってきた。「GENZOさん、あなたのおかげでうちの桜餅が完売しました」と深々と頭を下げよる。
ありがたやぁ。皮膚科代で8,900円飛んだが、お賽銭14,720円と合わせればプラス5,820円と桜餅20個じゃ。神になるのも悪くない。
ただし、あれから1週間経っても背中の一部がベタベタしとる。風呂に入っても取れん。ワシの体には今も桜の呪いが残っておる。老後破産寸前の爺が神になった代償は、永遠に剥がれない樹液と、SNSに拡散された「謎の桜おじさん」という不名誉な称号じゃった——まあ、来年もやるかと聞かれたら、絶対にやらんしお前らもマネするなよ。
この記事は面白かったですか?



コメント