金沢駅から特急に揺られて2時間。七尾駅に降り立った瞬間、潮の匂いと、どこか懐かしい醤油の香りが鼻先をくすぐった。駅前のアスファルトはまだ朝の冷たさを残している。足裏に伝わるひんやりとした感触。ここから能登の旅が始まる。
七尾の港町、まだ静かすぎる朝

駅から港まで徒歩15分。商店街を抜ける道を選んだ。シャッターの閉まった店がいくつか目につく。でも、開いている魚屋の前を通りかかると、店主のおばあちゃんが声をかけてきた。
「あんた旅の人? 最近めっきり減ったわ」
震災後、観光客の足が遠のいたままだという。「でもね、能登はちゃんと生きてるんよ」と笑う。港に出ると、漁船が何隻か停泊していた。朝の光を受けて、海面がきらきら揺れている。塀の上に登って眺めると、この港町が「観光地」ではなく「暮らしの場所」だとわかる。
輪島朝市通り、再開した店のぬくもり

七尾からバスで約1時間半、輪島に着いた。運賃は1,200円ほど。朝市通りは、かつての賑わいを知る者には切ない光景かもしれない。更地になった場所、工事中の建物。でも、営業を再開した露店がぽつぽつと並んでいる。
干物を焼く匂いが路地に漂う。石畳は震災で一部がでこぼこになったまま。足裏に伝わる不揃いな感触が、この街の今を物語っている。
「買ってくれなくてもいいから、見に来てほしいんよ」
漆器店のおじさんがそう言った。輪島塗の箸を1膳、3,500円で買った。使うたびに思い出すだろう、この街のことを。
珠洲の見附島、静けさの中で

輪島から珠洲へ。バスを乗り継いで約1時間。見附島は「軍艦島」の愛称で知られるあの奇岩だ。震災で一部が崩れたと聞いていた。
海岸に降り立つと、砂利がじゃりじゃりと鳴る。観光客はボクを含めて3人しかいない。かつてはもっと賑わっていたのだろう。崩れた岩肌を見上げながら、波の音だけが響く時間。
近くの土産物店で塩サイダーを買った。350円。店番のおばちゃんが「写真撮って、SNSに載せてね」と言った。この静かな海岸を、誰かに伝えてほしいのだ。
旅の実用メモ

能登を巡るなら、春か秋が歩きやすい。夏は日差しが強く、冬は雪と風が厳しい。
予算の目安はこんな感じだ。節約派なら1日5,000円前後(バス移動・地元食堂)。ふつうに巡って8,000〜12,000円。宿に泊まってゆっくりするなら15,000円以上。金沢から日帰りも可能だが、1泊すると能登の夜の静けさを知れる。
アクセスは金沢駅から特急「能登かがり火」で七尾まで約1時間。そこから先は路線バスが主な足になる。本数が少ないので、時刻表は事前に確認しておくといい。
去り際

帰りのバスを待つ間、夕日が海を染めていた。「また来てね」と言われた言葉が、まだ耳に残っている。振り返らずに乗り込んだ。でも、また来ると思う。たぶん、にゃ。
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