電車のドアが開いた瞬間、少しだけ甘い匂いがした。山の方から吹いてくる風に、どこかの庭木の花が混じっているらしい。JR住吉駅のホームは静かで、乗り降りする人もまばらだった。
駅を出たら、川の音が聞こえた

改札を抜けると、どこからか水の流れる音が聞こえる。駅から徒歩3分、住吉川だ。六甲山から流れ下る川は思っていたより幅が広く、川底の石がはっきり見えるほど澄んでいた。
川沿いの遊歩道に降りてみる。コンクリートの上を歩くより、土と砂利が混じった道のほうがずっといい。足裏に伝わるじゃりじゃりした感触。川面を渡る風は冷たくて、街中とは空気が違う。
平日の昼間、散歩している人がぽつぽついる。犬を連れた年配の男性、ベビーカーを押す若い母親。みんなゆっくり歩いている。ボクも急ぐ理由がない。
住吉山手の坂道を登る

川沿いを上流へ歩くと、だんだん坂がきつくなる。住吉山手と呼ばれるエリアだ。古い洋館と新しいマンションが混在していて、塀越しに庭の緑が見える。
石垣の上にいい感じの隙間を見つけた。誰かの家の庭と道路の境目、ちょうど猫一匹分の幅。少しだけ入り込んで、坂の下を見下ろす。神戸の街並みの向こうに海がきらきら光っている。
この辺りは明治時代から外国人や財界人が住んだ高級住宅地だったらしい。なるほど、建物の造りに余裕がある。塀も高く、門も立派。ただ、中の様子は外から見えない。それがちょっと残念。
創業明治の和菓子店で小休止

坂を下りて、駅の南側へ。商店街というほどでもない、昔ながらの店が点々と並ぶ通り。その一角に「御影の和菓子処 杵屋」の看板を見つけた。創業は明治20年代だという。
店に入ると、餡子を炊く甘い匂いがふわっと広がる。ショーケースには季節の上生菓子が並んでいて、どれも小ぶりで品がいい。迷った末に、桜餅と草餅を一つずつ。合わせて420円。
店先のベンチで食べる。桜餅の塩漬けの葉がしょっぱくて、中の餡の甘さを引き立てる。草餅はよもぎの香りがしっかり効いていて、口の中が春になった。店主らしき女性が「ゆっくりしていってね」と声をかけてくれた。
住吉歩きの実用メモ

ベストシーズンは春か秋。夏は六甲おろしがなくても暑いし、冬は山からの風が冷たい。川沿いの桜は4月上旬が見頃らしい。
予算の目安はこんな感じ。節約なら交通費のみで500円程度。和菓子やカフェでひと休みするなら1,000〜1,500円。住吉には老舗の洋食店もあるので、ランチ込みなら2,500円くらい見ておけばいい。
アクセスはJR神戸線で三ノ宮から普通で約8分、快速なら5分。阪神御影駅からも歩ける距離。大阪梅田からでも30分かからない。
また来るかもしれないし、来ないかもしれない

駅のホームで電車を待ちながら、さっき登った坂の方を見上げた。派手な観光地じゃない。でも、足裏が覚えている感触がある。
電車が来た。乗り込む前に一度だけ振り返った。にゃ、悪くなかったよ。
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