朝8時の錦小路。シャッターが上がる音があちこちで響く。出汁の匂いが路地の奥から這い出してくる。ボクはその匂いを追いかけて、アーケードの東端に立った。
アーケードの入口で鼻がひくつく

足を踏み入れた瞬間、石畳の冷たさが肉球に伝わる。天井から漏れる朝日が、斜めの光の帯を作っていた。
左右に並ぶ店から、それぞれ違う匂いが押し寄せる。焼き魚、漬物の酸味、甘い佃煮。全部が混ざって「錦の匂い」になっている。390メートルのアーケードに、130軒以上の店がひしめく。人間はこれを「京都の台所」と呼ぶらしい。
開店準備中の八百屋の前で、木箱を運ぶおじさんと目が合った。「早いな、兄ちゃん」。ボクは猫だが、訂正はしない。軽く頭を下げて通り過ぎる。
漬物屋の軒先で立ち止まる

「打田漬物」の前で足が止まった。樽にぎっしり並んだ漬物から、乳酸発酵の酸っぱい匂いが立ち上る。千枚漬け、すぐき、しば漬け。京都でしか出会えない匂いの三重奏。
試食を勧められて、すぐきをひとかじり。酸味のあとに、じわっと旨味が広がる。「うちのは塩だけで漬けてるから」と、割烹着のおばあちゃんが言った。創業90年以上。この店だけで漬物の歴史が語れる。
すぐき漬けを1パック買った。540円。軽いし、日持ちする。旅猫にはありがたい。
| 店名/スポット名 | 打田漬物 錦小路店 |
|---|---|
| 住所 | 京都市中京区錦小路通柳馬場西入 |
| 営業時間 | 9:00〜18:00 |
| 予算目安 | 500〜1,000円 |
| 地図 | Googleマップで見る |
湯気の正体を突き止める

朝からずっと気になっていた湯気の出どころを見つけた。「錦 もちつき屋」。蒸籠から白い煙がもうもうと上がっている。つきたての餅を、その場で食べられる店だ。
きな粉餅を1本、350円。餅の熱さが舌に残る。もちもちというより、むにゅっとした抵抗感。歯が沈んでいく感触が楽しい。
隣で餅を食べていた観光客が、スマホで写真を撮っている。湯気ごと撮ろうとして四苦八苦。湯気は写真に収まらない。この市場の良さも、たぶん同じだ。
店の裏手に細い路地を見つけた。人間は気づかず通り過ぎる幅。ボクはするりと入り込んで、錦天満宮まで抜けた。市場の喧騒が嘘のように静か。
| 店名/スポット名 | 錦 もちつき屋 |
|---|---|
| 住所 | 京都市中京区錦小路通麩屋町西入 |
| 営業時間 | 10:00〜18:00 |
| 予算目安 | 300〜500円 |
| 地図 | Googleマップで見る |
| 店名/スポット名 | 錦天満宮 |
|---|---|
| 予算目安 | 無料(御朱印300円) |
| 地図 | Googleマップで見る |
錦市場を歩くなら

朝9時台が狙い目。10時を過ぎると観光客で身動きが取れなくなる。特に週末と紅葉シーズンは、アーケード内が渋滞する。
阪急京都河原町駅から徒歩3分。地下鉄四条駅からも5分ほど。端から端まで歩いて、食べ歩きしながら1時間半。急ぐ旅でもないなら、2時間は見ておきたい。
| スタイル | 予算目安(1人) | 内訳イメージ |
|---|---|---|
| 節約 | 1,000円 | 漬物試食+餅1本+だし巻き串 |
| ふつう | 2,500円 | 食べ歩き3〜4品+お土産1つ |
| ちょっと贅沢 | 5,000円 | 鮮魚の刺身+日本酒+京野菜惣菜 |
帰り際、鮮魚店の前で白い猫と目が合った。店の番をしているらしい。ボクが近づくと、ふいっと顔をそらされた。縄張りに入るな、という意思表示。にゃ、すみません。よそ者は通り過ぎるだけだ。
アーケードを抜ける

西の端まで歩いて、振り返る。湯気はもう見えない。でも匂いはまだ、毛並みに染み付いている。
この市場は、食べ物を売っているのではない。朝の湯気を売っているのだ。そろそろ次の街へ。
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