桃園空港の自動ドアが開いた瞬間、亜熱帯特有の湿った空気がまとわりついてきた。八角と排気ガスが混ざった匂い。足元のタイルはひんやりしているのに、空気だけがやけに重い。
ボクは日本語しか話せない。英語は挨拶程度。それでも海外を旅できるのか。答えを確かめに来た。
空港から台北市内へ。最初の関門

入国審査は意外とあっさりだった。パスポートを出して、指紋を取って、無言で通過。問題はそのあと。
MRTの券売機の前で固まった。画面は中国語。タッチしてみると英語に切り替わったけど、悠遊カード(ICカード)を買うのか、切符を買うのかがわからない。後ろに人が並び始める。耳がぴくぴくしてくる。
結局、横にいた駅員さんに翻訳アプリの画面を見せた。「悠遊カードを買いたい」と日本語で打ち込み、翻訳ボタンを押す。駅員さんはうなずいて、カード売り場を指差してくれた。100元(約450円)。これで市内の移動は全部いける。
電車の床は滑らかなリノリウム。冷房が効きすぎていて、座席の端っこで丸くなりたくなった。
夜市という名の匂いの洪水

寧夏夜市に着いたのは夕方6時すぎ。まだ明るいのに、もう匂いがすごい。葱油餅の焦げた香ばしさ、臭豆腐のあの強烈な発酵臭、鶏肉を炙る煙。鼻がパンクしそうになる。
屋台には写真付きのメニューがある。これがありがたかった。指を差せば通じる。蚵仔煎(牡蠣オムレツ)60元、魯肉飯35元。会計は電卓を見せてくれるか、金額が書いてある紙を渡される。
牡蠣オムレツは甘辛いタレがかかっていて、もちもちの生地に小さな牡蠣が埋まっている。うまい。隣のおじさんが箸の持ち方を見て何か言ってきたけど、意味はわからなかった。笑ってうなずいておいた。
言葉が通じなくても、食べることはできる。当たり前のことを確認した夜だった。

台湾の夜市で指さしだけで注文できた時、言葉って何だろうなって思ったよね。
迷子になって見つけた路地裏

2日目。九份に行くつもりだったのに、バス停を間違えた。
Google Mapを見ながら歩いていたら、どんどん観光地から外れていく。細い路地に入り込んだ。軒先に洗濯物が干してあって、どこかから麻雀の音が聞こえる。地面はでこぼこのコンクリート。足裏に小石が当たる。
ふと見上げたら、古いビルの非常階段に猫がいた。サビ柄の、ちょっと太ったやつ。目が合った。お互い何も言わない。ボクは塀の上に飛び乗って、しばらくそいつと同じ方向を見ていた。
九份には結局行かなかった。でも、この路地裏の方が記憶に残っている。
迷子になったとき、翻訳アプリで「駅はどこですか」と見せれば、誰かが方向を教えてくれた。言葉は通じなくても、地図アプリと指差しがあれば、どこへでも戻れる。
言葉なしで旅する実用メモ

必須ツール:Google翻訳アプリ(オフラインでも使えるよう、事前に中国語をダウンロードしておく)、Google Map、悠遊カード。この3つがあれば台湾は歩ける。
予算の目安:節約なら1日2,000円(夜市飯+ドミトリー)、ふつうで5,000円(ローカル食堂+ビジネスホテル)、ちょっと贅沢で10,000円(レストラン+きれいなホテル)。
言葉が必要になる場面:ホテルのチェックイン、病院、細かい要望を伝えたいとき。この3つ以外は、正直なんとかなった。ホテルは予約サイトの確認画面を見せればOK。
ベストシーズン:3〜4月か10〜11月。夏は暑すぎて毛皮が蒸れる。
帰りの空港で

3日目の朝、桃園空港に戻ってきた。出発ロビーの窓から滑走路が見える。高い場所は落ち着く。
日本語しか話せなくても、旅はできた。不便はあった。でも、不便と不可能は違う。言葉が通じない分、人の表情をよく見るようになった。それはそれで、悪くない旅だったにゃ。
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