西武秩父駅の改札を抜けた瞬間、山の匂いがした。杉と土と、どこかから流れてくる味噌の香り。3月の風はまだ少し冷たい。
駅前の喧騒を抜けて、裏道へ

駅前の「祭の湯」は観光客でごった返していた。土産物屋の照明が眩しい。ボクは人混みが苦手だ。足早に通り過ぎて、駅の裏手に回る。
アスファルトから石畳に変わった。足裏がひんやりする。古い酒屋の軒下を通ると、杉樽の匂いがふわりと鼻をくすぐる。
番場通りという商店街らしい。シャッターの閉まった店もあるけれど、豆腐屋からは湯気が立ち、金物屋のおじいさんが店先で日向ぼっこしている。観光地の裏にある、生活の匂い。こういう道がいい。
秩父神社の屋根は登れなかった

番場通りを抜けると、秩父神社の鳥居が見えた。思ったより大きい。本殿の彫刻を見上げる。左甚五郎作の「つなぎの龍」。鮮やかな青が目を引く。
屋根の勾配を確認したけれど、瓦がつるつるで足場がない。登るのは無理だ。代わりに境内の大きなイチョウの根元に座り込む。木の幹がほんのり温かい。午後の日差しを吸い込んでいるのだろう。
絵馬を眺めていたら、地元のおばあさんに「寒くないかい」と声をかけられた。寒くない。むしろ心地いい。でも黙ってしっぽを振っておいた。
豚みそ丼の匂いには勝てない

神社を出たあたりで、甘辛い味噌の匂いが風に乗ってきた。鼻がひくひくする。匂いの元を辿ると、「野さか」という店に行き着いた。
豚みそ丼、並盛りで1,000円。炭火で焼いた豚肉が、甘めの味噌ダレを纏っている。脂の焦げた香ばしさが鼻に抜ける。白飯との相性は言うまでもない。
店内は13時を過ぎても満席だった。窓際の席で外を眺めながら食べる。観光客の家族連れ、地元の作業服姿の男性、一人旅らしい女性。みんな同じ丼を前に黙々と箸を動かしている。
旅の実用メモ

秩父は春と秋がいい。3月下旬の芝桜、11月の夜祭。夏は盆地特有の蒸し暑さ、冬は山からの冷え込みが厳しい。
予算の目安はこんな感じだ。節約なら交通費込みで3,000円(弁当持参、日帰り)。ふつうに楽しんで5,000〜7,000円。温泉と食事を贅沢にするなら10,000円は見ておきたい。
東京・池袋から西武特急で約80分、1,500円ほど。各停を乗り継げば800円程度に収まる。
西日の中を、ふらり

夕方16時、武甲山が西日でオレンジ色に染まっていた。駅へ戻る道すがら、さっきの豆腐屋がもう店じまいを始めている。
振り返らなかった。また来ればいいにゃ。
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