湊川公園の夜に響く、猫たちの沈黙

旅行・おでかけ

午後8時の湊川公園。街灯がぽつぽつと灯り始めた瞬間、昼間とはまったく別の匂いが鼻をついた。揚げ物と排気ガスが混じった都会の匂いの下に、獣の気配。同類がいる。

暗がりに光る、6つの目

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新開地駅から地上に出ると、湊川公園の南端に着く。徒歩1分もかからない。昼間は地元のおじいさんたちがベンチを占領しているこの公園、夜になると主役が入れ替わる。

噴水広場の端、植え込みの陰に3つの影。目が光っている。こちらを見ている。ボクは足を止めて、ゆっくり腰を下ろした。猫同士の挨拶の基本。急がない、見つめすぎない、近づきすぎない。

1匹の白黒ハチワレがゆっくりこちらに近づいてきた。鼻先を寄せてくる。ボクも鼻を差し出す。3秒の沈黙。それだけで十分だった。「よそ者だな」「そう、通りすがり」。言葉にすればそんなところ。

ハチワレはふいっと背を向けて植え込みに戻っていった。挨拶終了。あっさりしているのがいい。

缶詰おじさんと茶トラの関係

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公園の北側に移動すると、ベンチに座った男性が缶詰を開けていた。足元に茶トラが2匹。堂々としている。明らかに常連だ。

「お、見ない顔だな」とおじさんがボクに気づいた。「ここの子じゃないだろ」

旅の途中だと目で伝えたつもりだった。おじさんは「ほら」と缶詰の中身を地面に置いてくれた。マグロのフレーク。悪くない。茶トラ2匹が警戒の目を向けてきたが、おじさんが「まあまあ」と声をかけると大人しくなった。

この公園には地域猫の世話をする人が何人かいるらしい。毎晩決まった時間に来て、決まった場所で餌をやる。茶トラたちはその時間を正確に知っている。人間より時計に正確なのは猫の常だ。

マグロを3口ほどいただいて、ボクは礼もそこそこに立ち去った。長居すると茶トラに睨まれる。縄張りには敬意を払う。

街灯の下の黒猫会議

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公園の中央、一番明るい街灯の下に黒猫が3匹いた。不思議な光景だった。夜に黒猫が明るい場所に集まるのは珍しい。

近づいてわかった。街灯の根元が温かいのだ。日中の熱がまだ残っている。3月の夜、気温は10度を切る。暖を取れる場所は貴重だった。

ボクも端っこに陣取った。黒猫たちはちらりとこちらを見たが、特に反応なし。温かい場所の争いはしない。それが湊川公園のルールらしい。

しばらくじっとしていると、体が温まってきた。黒猫の1匹が目を閉じた。つられてボクも目を細める。人間たちが酔っ払って通り過ぎていく声が遠くに聞こえる。新開地の夜は長い。

ふと目を開けると、隣の黒猫がいなくなっていた。いつの間に。音もなく消えるのは猫の特技だが、やられる側になると少し悔しい。

夜の湊川公園を歩くなら

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湊川公園で猫に会いたいなら、午後8時から10時がいい。昼間は人が多すぎて猫は隠れている。新開地駅から徒歩1分、神戸高速線か神戸市営地下鉄で来られる。

予算はゼロでいい。強いて言えば、近くの「丸萬本家」で豚まん1個180円を買って、半分を猫用に取っておくくらい。ただし塩分が多いから、あげすぎは禁物だ。

ちょっと贅沢するなら、湊川商店街の「ぼっかけうどん」を狙う。牛すじとこんにゃくを甘辛く煮たやつがうどんに乗っている。だいたい500円前後。匂いだけでも価値がある。

帰り際、噴水広場のベンチで老夫婦がコーヒーを飲んでいた。「あら、猫」と奥さんが声をかけてきた。「最近この辺、猫が増えたわね」。増えたのか減ったのか、ボクにはわからない。ただ、今夜ここにいる猫はそれなりに幸せそうだった。

また会うかもしれない

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午後10時を過ぎると、公園は急に静かになる。人間が減ると、猫も減る。どこかに散っていく。

ボクも新開地の駅に向かって歩き出した。背後で気配がした。振り返ると、最初に挨拶したハチワレがこちらを見ていた。目が合う。また来るかもしれないし、来ないかもしれない。そういうものだ。

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この記事を書いたライター
バックパックと地図だけを持って旅する猫。格安航空券の嗅覚は超一流。予算別プラン・現地グルメ・穴場スポットをリサーチして届けます。ニャンとかなる、が信条。

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